建築をつくる時代の次へ。
「あの建築家が作った施設!」ではなく「どんな過ごし方ができる空間?」が求められている時代。
ひと昔前であれば、あの巨大なお役所はあの有名建築家がつくったんだという話が話題だった。
一方平成が30年目を迎えた今、かっこいい建築とは別に、「私にとっての」空間の意識が市民に芽生えている。
そんな時代に必要とされる公共空間について考えてみたい。
目次
1部│社会が変わる。制度が変わる。
先日、公共R不動産の新刊『公共R不動産のプロジェクトスタディ』の刊行記念イベントに行ってきた。
公共R不動産を立ち上げたメンバーたちが、今までのプロジェクトに対してどのように設計を行い、マネジメントを進めてきたか。
そして、数多くのプロジェクトをどのように分類し、編集したかという制作秘話が随所にある内容だった。

これからの「日本の公共空間の変革」について具体的な夢を語り、
建築空間デザインを「かっこよくつくる!」想いを大切にしながら、既存公共空間の活用の最前線にいる彼の言葉は、
変化している社会と価値観の波に乗り、社会をよりよくすることが楽しくて仕方ないという気持ちが、にじみ出ているようだった。
「こんな空間があったらいいな」5年前の妄想が現実になり始めた2018年
日本は、なかなか前例を打ち破ることには前向きではないが、
不思議なもので「みんなでやろうぜ」という流れができると堰を切ったように、加速的に物事が進み、大きなムーブメントになる力がある。
と話し出したのが、ディレクターである馬場だ。
馬場は、OpenAという設計事務所で建築設計を基軸にしながら、不動産やメディアに関する運営を行っている。
今回の書籍は、そのうちの一つの活動であるR不動産から派生した、公共R不動産。
公共R不動産
「今まで携わった公共事業」や「世界的に注目されている事業」、「スタッフたちが独断と偏見で面白いと思ったプロジェクト」を取りまとめたのが『公共R不動産のプロジェクトスタディ』なんだそうだ。

馬場は言う。
次に変革すべきは公共空間だと気づき『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』という本を書いたのが、2013年。
その時は、「公共空間がこんなふうに変わればいいのに」という理想のスケッチを無邪気に提案した、まるごと企画書のような本でした。
幸いなことに、5年が経過した今、そのスケッチのいくつかは実現しています。
そして、馬場本人が、まるで秘密基地に友達を招き入れている子どものような笑顔で終始話しているのが印象的だった。
日本の公共空間はものすごいドライブ感で動き出している
公共R不動産の始まりは、「遊休化している公共空間」と「(公共)空間利用したい人・団体」とをマッチングさせられたら、面白いのではないか!
とメディアを思い立ち上げたのがきっかけだった。

公共R不動産:https://www.realpublicestate.jp/
正直、掲載希望の案件が山ほど出てくるかと思っていた。
しかし、まったく声はかからなかった。
行政側は、今まで公共空間を民間に「売る」はあったが、「賃貸」や「委託」といった運営を託す形式はほぼなかった。
行政の担当者としては、利用希望者に出したい遊休不動産があっても、議会での承認や上司の承諾といった、
山ほどのコンセンサスが必要でどうにもできない現状を目の当たりにした。
今でこそ日本中の自治体や国土交通省、総務省、内閣府等から相談や掲載依頼が来るようにはなったが、
公共R不動産を始めてみてまずわかったことは、やっぱり公共は制度という壁があまりに大きいということだった。と、冗談交じりに立ち上げについて振り返る。
3年目の帰着点として気づいた「3つの変革」
「とはいえ、今の日本の公共空間は大変革期だ」と馬場は目を輝かせて、説明を続けた。
契機になったのは陳腐ではあるが、やはり「リーマンショック」や「東日本大震災」で人々の意識が大きく変わったことだ。

貨幣価値から信頼価値になったとき、「社会に起きた3つの変革」が新しいタイプの公共空間をつくり出すエンジンとなっているという。
- 空間の変革…つくる時代から使う時代へ
- 制度の変革…国は矢継ぎ早に制度の規制緩和を進めている
- 組織の変革…民間と行政のパートナーシップ
空間の変革:つくる時代から使う時代へ
私たちが生きる今は、高度経済成長時代に整備された公共施設軍が一気に老朽化を迎えており、さらに日本の人口減少も相まって使わられず、
古くなった公共施設がリニューアルもされることなく放置されている時代だ。
次は、使えていない施設をどう利用するか。が求められている。
誰がどのように運営し、誰のための空間として利用するのか考え方をソフト側に寄せていく必要がある。
都内の廃校を利用した例:台東デザイナーズビレッジ
制度の変革:矢継ぎ早な規制緩和
□2011年河川法準則改正
河川の収益事業はNG→飲食店、オープンカフェ、広告板、照明・音響施設、バーべキュー場
参考:水辺の使い方を考える
□2017年都市公園法改正
公園の敷地面積の2%しか屋根のある建物を建ててはいけない→12%まで緩和
参考:「都市公園法の改正」で公園内の保育所が可能に。都市公園はこれからどう変わる?
など、次々と改正に改正を重ねている現状があります。
組織の変革:民間&行政のパートナーシップ
なぜ、ここ10年ほどで行政は法律の改正をここまで推し進めたのか。人々の意識が変わり、公民連携のために整えていったからである。
現在、行政、民間の双方がその適切な組織の在り方に試行錯誤を重ねている。
・公共を担う新しい民間疎市区
・カウンターパートナーとしての行政側の体制
・契約のカタチ
が重要なポイントになっている。
公共を担う新しい組織には、公共者であるマインドを持ちながら民間ならではの経営感覚をもって空間運営を行う企業が増えている。
時代の価値観が反映されているのであろう。
ざっくりではあるが、10分程度で馬場がこの3年で気づいた3つの点について語ったのちに、
バトンがスタッフに渡され、書籍についての話へと展開した。
2部│本の編集作業と小さな社会実験
プロジェクトの総洗い出しから始まった編集作業
書籍の編集を行ったスタッフたちによる、掲載されている事案のポイントや裏話、最新の海外トピックをリレー形式で紹介された。
その中で出てきた『公共R不動産のプロジェクトスタディ』がどのような順序で編集・制作をしたかという裏話が、面白かった。
「この本は、まず自分たちが面白い、かっこいいと思った事例を、ばーーーっと書き出そうと馬場が言い出して、一人ひとりが提案して、そこからグルーピングをして章立てをしていったんです。
だから、前半はまとまりがあって、わかりやすくできたんですが、後半になるとふわっとしていて、実はなんとか名前を付けられたという状況でした(笑)」
そのグルーピングというのが以下である。

1部│公共空間を使う4ステップ
1.風景をつくってみる―社会実験
2.仮設で使ってみる―暫定利用
3.使い方を提案する―サウンディング
4.本格的に借りてみる―民間貸付2部│公共空間をひらく3つのキーワード
5.シビックプライドをつくる―オープンプロセス
6. 領域を再定義する―新しい公民連携
7.“公共“を自分事にする―パブリックシップ
確かに本書を読んでみると、前半ほど「仕事」「業業」としての明確なプロセスが見えてくるのに対して、
後半になると、点がバラバラと配置されているだけで、どうにもまだ線でつながっていない感じがする。
ぜひ一度読んでみてほしい。
結果を一度でもいいから出してみる
このトークショーの中で、何度も出てきたのが「風景をつくってみる」=社会実験というキーワードであった。
「あったらいいな」と思い描く風景は、短期間でもいいから、まず実際につくってしまう。実験してみる。
実行してみて、そして、人々の意識を変わりるかもしれない。公共空間の活用を縛っているルールを見直すきっかけになるかもしれない。
まずは、提案し、実現させてしまう。
失敗も成功もその後に生かせばいいと、馬場はトークの締めで言った。
「もっと実験できる社会でいいんじゃないか?」と。そして、こんな話をした。

IKEBUKURO LIVING LOOP | 都市を市民のリビングへ
池袋池袋東口グリーン大通りは、銀行などの金融施設が多く、普段から多くの人で溢れかえるような通りではなかった。
そこで、実験的に『IKEBUKURO LIVING LOOP』と称して、南池袋公園と連動させたイベントをスタートさせた。
そこで得た、ストリート上でのイベントを行うときに必要となる設備や、どのように給水・配電などを設計したら、
継続的にコトを起こすことができるかを、経験知として蓄積している。
実際には佐賀県での公園設計の際に、実験で得た結果を生かして設計を行うことができた。
とはいっても、なかなかその一歩ってつくれないよね?なんて思ってしまうが、実際の話を聞くとなるほどな。と思わされてしまう。
小さな経験が、点と点として結ばれたとき、新しいプロジェクトは豊かになるのだ。
胸が苦しくなる言葉「まずは、小さくても試してみる」
公共空間は誰のものか。ふと、そんな疑問がコツンとぶつかった。
空間活用ももちろんだが、どんな企業でどういった仕事をしていても、いずれは新しいことにチャレンジしなくてはいけない。
そのためには、「小さな挑戦」が必要になる。
公共空間は誰のものか。今までつくっていたのは行政だ。行政がつくって、市民がつかう。
ならば試しに、使う私たちから使いたい方法を提案してみる。
そんな市民の提案を、小さくともいいから結果を残すためには何をクリアしなくてはいけないのか。
国がなにを意図して規制緩和をしているか。民間はどうアプローチしたらいいのか。といったことを事例集として
『公共R不動産のプロジェクトスタディ』は具体的なロールモデルを提示してくれる教科書的な1冊である。
・・・
今、過去に作ってきた公共空間を使おうと、つかうシステムを新たにつくり、更新したその先の時代。
私たちの子供たちの世代が、私たちと同じ年齢になるころの世界を想像すると、それは、とても賑やかで潤いのある空間が広がっている気がする。
そんな思いも公共R不動産の彼ら彼女らは、きっと持っているのではないだろうか。
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